日本のすがた・かたち
昨年は伊勢神宮の式年遷宮の年でした。
遷宮の次の年は「御蔭年(おかげとし)」といわれ、他の年より縁起が良く、恩恵が多いとされています。
今年の神宮参拝者が多いのもこの御蔭参りをする人たちのようです。
20年前の第61回式年遷宮の頃から書き始めたメモやスケッチは、何時しか短い文章になり、文献や資料を漁るうち私見や自説が出てきて、それを書きとめてきた量は一冊の本にまとめられるようなものになりました。
「何時か出版したい…」そう思って整理をしていました。
きっかけは東日本大震災でした。
これをまとめて本にしよう!そう決心しました。
なぜか震災直後の有様が、日本人の私の背中をドンッと押したのです。
20年分の原稿は450頁ほどの量になり、それを300頁以内にまとめる作業は困難なものでした。なにしろ文をズタズタに切った文章はつながりにくく、それでなくても文章力のない私には難儀の作業でした。
当初の出版日の目標は、神さまの引越しである「遷御の儀」が行われる2013年10月2日の前までに、と決めていましたが、いろいろな事情が出てきて今月末という運びになりました。
今年はその御蔭年。何事もより恩恵に浴する年だとすると、21年目になる『伊勢神宮』の出版は御蔭参りのこの年に成就することになっていたのかもしれません。
出版を間近にして、神宮建築群を改めて思い起こします。
内宮正殿は天皇家の弥栄を願う象徴的な建築です。それが今日では人類の弥栄を願う建築にもなっています。日本人の優れた記憶が脈々と伝えられ、これからの時代に生きるヒントが詰まっている神宮は、ますます世に広まっていくことになると思います。
私は、自分の描く建築家像を追いかけて40年になりますが、未だに道半ばというところです。
しかし、ここに至ると珠玉といわれるような建築をいくつか挙げることはできます。
現代日本の建築を俯瞰してみると、まず、伊勢神宮内宮正殿です。正殿は鬱蒼と茂る森の中に鎮座する「陰」の建築で、私は「陰の神座」と呼んでいます。
では「陽の神座」は何処か。
私の脳裏には「水晶殿」が浮かびます。熱海の水晶殿から眺望する一都三県の風光と建築的品位は別格です。まさに陽の極みといえます。
どちらも「珠玉の建築」の称号に相応しい神々しさと品格を感じさせています。
写真 上 神さまの引越し「遷御の儀」2013・10・2
下 水晶殿からの眺望