Sのプロジェクト

2019年12月3日
魅力あるスケッチの先に

美術館などで絵画を鑑賞するとき、たまに画家の簡素なスケッチが合わせて展示されていることがあります。クロッキー帳の隅っこや、紙ナプキンに急いで描かれたものなど、何気ない日常の一コマのスケッチだったりするわけですが、完成品の絵画よりもそちらの方が見ていてワクワクすることがあります。
単に、線のタッチや構図などが気に入る場合も多いのですが、それらを通して、画家の視点や感性を垣間見られることに面白みを感じます。
何より素朴でシンプルなスケッチは、見る人の想像力をかきたててくれます。

建築のプランでも同じことが言えそうです。
どんな建物でも、図面という完成品に至るまでは、たくさんのスケッチが描かれます。
建築のプランニングの場合、スケッチというよりエスキースという概念の方がしっくりくるかもしれません。
魅力あるスケッチやエスキースは、様々な情景を生み出します。
そして、それは魅力ある建築にと繋がっていきます。

 

三島御寮のパンフレットに描かれている施設計画の全体像と立面のスケッチを見たとき、たったこれだけの情報なのに、「あ、景色が見えた・・・・・・。」と感じました。

エントランスホールから眺める広場
池の向こうに佇む書院棟屋根の美しさ
小間席までの露地のアプローチ
展望室から見る三島の町と富士山
茶の舞台で繰り広げられる儀式・儀礼の数々
書院棟、数寄屋棟と小間席が連なる圧巻の茶会
Sの茶室の未知なる感覚・・・

ここに至るまで、どれほど膨大で魅惑的なスケッチがなされたのでしょうか。
そんな思いを馳せずにはいられません。
まだまだ見えぬ景色が、時間の積み重ねとともに増えていく。
三島御寮にはそんな期待が湧いてきます。

 

望月美幸(建築家・JIA会員)

 

 


2019年12月3日