新之介文庫だより

2014年8月26日
読者の方から

八重垣神社 松江.jpg                                                     

新之介文庫の佐々木です。

新刊本『伊勢神宮』は京都の方から沢山のご注文を頂きました。

少しずつですが、お読み頂く方が多くなるのが楽しみです。

一般の読者の方から『伊勢神宮』の感想文が届いています。

建築家が書いた建築的な「伊勢神宮」ではないかというイメージから、

難しい内容に思われていたようですが、有難い感想文を頂きました。

日野美奈子さんは伊豆の国市にお住まいです。

日野さん有難うございました。

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     「伊勢神宮」を読んで             日野美奈子

 

 静寂さの漂うその本の扉を開くと、内宮正殿全景の写真に迎えられ、かつて訪れた伊勢神宮での御垣内参拝や御神楽の感動がよみがえってきた。

 まず惹きつけられたことは、建築家である著者が目指す何百年もの歳月を生きる木の建築造りという志の高さだ。神宮建築史学と神宮像を一変させる、歴史書においても重要な位置を占めうると言わしめた「飛騨の口碑」とはどのようなものだろうか。壮大な謎に好奇心をかきたてられ、読み進めるとそこには驚きの数々があった。

 皇室のルーツが飛騨にあったこと。仕事でご縁のあった飛騨高山は思い出深い場所。天照大神はヒルメムチとして生き、没後約700年後から天照大神と呼ばれたとは驚きだ。祖父の実家がある出雲で、出雲大社を国譲りの見返りとして飛騨の工匠たちが造営したこと、後の権力者は天皇ではなく出雲族である三輪氏だったこと、記紀は出雲勢力の歴史書だったとは。

 古代史から続く謎に満ちた伊勢神宮創建、正殿建築の変遷をたどる壮大なドラマは、巻末の図表や年表と合わせて見るとわかりやすい。また、定説に対する著者の私見は文献や時代背景をもとに説得力があった。

 飛騨の口碑を世に出した山本健造は、神秘的な能力を持つ背景も興味深いが、古翁より伝えられた日本民族にとって重大なことを世に出さなければという使命感、持統天皇が成し遂げた内宮の建立と三輪氏の外宮建立の容認、豊臣秀吉らの資金援助に、遷宮を復活させた尼僧たち、おかげまいりの流行など、様々な人たちの思いや行動の結果が今に受け継がれている。

 また著者は日本文化の特質として、古神道、日本仏教、皇室に茶の湯を添え、仕事も家事も荒事も自然と生命への祀りだと述べている。建築家は祈るような心境で建築と向かいあうべき、と著者が感じたように、生活の中でも料理や作物を育てるときに命や自然に感謝し祈りを捧げるように行う、尊ぶ心を日本人は持っていると思う。日本人の精神性、木の文化、魂が木に宿る建築の象徴である伊勢神宮に多くの人が惹きつけられる。式年遷宮は、天皇家の永続を願うにとどまらず、環境や経済においても自然の理にかなった古くて新しいシステムだと感じた。

 懐かしく祖先へ思いを馳せると共に、テレビや携帯電話など想像すらできなかったであろう現代に生きる私たちが、これまた想像がつかない遠い未来にも、伊勢神宮は再生を繰り返しながら人々の生活や心のよりどころとなっていることだろう。

 私が日々の報道や学んだ歴史に疑問を感じるようになった契機は東日本大震災だった。効率や便利さを追求するだけではなく、自然に学び、薬や肥料に頼らない生き方や農業を実践する方たちとの出会いも大きかった。調和や循環、祈りに意識が向いてきたタイミングだからこそ、この膨大な調査や資料をまとめあげられた一冊の情熱の結晶をより味わうことができたと思う。神々の国、日本に生まれたことに改めて感謝した。

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日野さんの他に7名の方から感想文が寄せられています。

お読みになった皆様からも是非お寄せ頂きたいと思います。

なお、新之介文庫では次の出版に向けて準備をしております。

またお知らせします。

写真  アマテラス  八重垣神社(松江) 


2014年8月26日