日本のすがた・かたち

2012年9月6日
国土のすがた

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先週、東南海トラフ沿いに起こる巨大地震による被害想定が発表されました。冬季の最悪の場合死者32万人、建物全壊238万棟という内容です。

この数字は、国の二つの有識者会議のメンバーが出したものですが、多分東日本大震災を基に、想定外とならないだろう範囲の最大被害想定だろうと思います。

地球上で起こる自然現象はどこまで行っても予測不可で、誰にも分からないというのが本当のところで、地表に生息している人間の脳が、理解する範囲を超えているからです。各地でこの数字を参考にし、これからの備えをする分けですが、まずは先人に学び、過去の記録や言い伝えをもとに、津波を避けられる高台移転をすることから始めることだと思います。

3・11大震災は多くの教訓を残しました。これは日本列島にヒトが住みついてから繰り返されてきた教訓です。何代にもわたり、集落を作り、そして破壊され、それに学び、そして再建するというサイクルの歴史です。私たちは今、その再建のスタートに立っていることになります。

今、地球上はエネルギー問題で頭を悩ましています。国々ではエネルギー欲しさの争いが絶えません。なぜでしょうか。

2500年前、釈尊はそれを「欲」といいました。現代の「経済」がこれにあたります。経済という名の怪物は人間の欲望を増長させることで存在しています。欲が欲を呼び、それが争いを生み、苦しみを増大させる…。人間は、この欲という刺激になれると、止めることが難しくなり、絶えず欲の増幅がなければ生きる希望さえ失うことになります。

この再建期は好機到来です。欲というエネルギー調達欲を調節できることはないだろうか、と考えていましたが、我が国は木造建築群再生計画が実行できる数少ない国である、と思うに至りました。これらの諸問題解決にも有効なプロジェクトになりそうです。目指すは「農林魚工業の共生共栄」です。

経済や景気を左右する最も大きなものに建設投資があげられます。建築はこれら凡てを網羅した人工物であり、エネルギー消費の最たるものでもあります。

現代建築の主流は鉄筋コンクリート造か鉄骨造、そして木とは名ばかりの木質系集成材造です。またプレハブ式という、あらかじめ工場での加工率の大きなものが経済的有利とされていますが、手放しで喜んではいられません。エネルギーの消費が増大し、手でのものづくりが組み立て作業化したため、先人が培ってきた技術が継承されない状況となっていいます。また工業は、利を追及するあまり、国外に進出しすぎました。その結果、国内の失業者を増やす原因となり、果ては領土を含め、外交上の問題に人質とされる仕儀ともなっています。

再生可能な木材をもって、限りなく人の手でものを作る。災害に遭えば工夫を重ね、次代にその知恵を手渡す。

国土の約70パーセントが森林。この自然循環サイクルがどこの国より達成できる風土の中に、私たちは生きています。

(写真 「筏流し」 楠本富浩(和歌山県) 第52回森林・林業写真コンクール 佳作)

 

 


2012年9月6日