日本のすがた・かたち

2020年1月26日
静かな興奮

 

         能代なる 天然のその 秋田杉 神に供せと 天の聲する

 

この高揚感は何だろう、と思いながら、急に雪が舞う能代の里でした。

秋田杉は我が国では屈指の銘木といわれ、木曽(ヒノキ)、青森(ヒバ)と共に日本三大美林といわれています。
5日前に天然の秋田杉が競りに出るとの情報を得た私は、関係者の方たちと協議し、急遽、秋田県東能代の県立銘木センターの競り市に出かけました。
この寒さの中、東北の秋田の山に出かけるとは…。不運といえば不運、また幸運といえば幸運、相半ばの状況でした。

 

二日間の予定をキャンセルし、早朝東京に出て、秋田新幹線「こまち」に乗り、一路秋田へ、そこから懐かしい奥羽本線に乗り換え、車窓から雪の積もる能代平野を経て、東能代へ。
降り立つと想像以上に雪はなく、東京とさほど変わらぬ天気で拍子抜けでした。

 

銘木センターには、大径の天然秋田杉が並び、この風景はもう十数年も見たことがないと感慨深く眺めました。前日の下見を終え、市内のホテルに。

 

早朝の天気は曇天で今にも雪が舞いそうな気配でした。
市内の道路には雪の気配もなく、今年の異常気象を肌で感じとりました。

 

昼から「山の神」を祀る神事に能代市長や関係者とともに参列させて頂き、競りの会場へ。
すると突然、雪が舞い始めました。私は浄めの雪だと思いました。

 

百人ほどが見守る中、二十社以上での競りは進み、そして予定した大径杉へ。私は競りを依頼した競り子の左後ろに立ち、見守りました。その時、得も言われぬ高揚感に見舞われ、静かな興奮の中にいました。冷たい空気も気にならない感覚でした。

予定した原木は殆ど落札し、帰りを急ぎました。

 

帰路の車中で、雪のない平野を眺めながら、何故このような急展開になったのか、考えていました。
答えはなく、ただご縁としかいいようのない二日間だった、と。

 

生涯、木の建築を造ることを志し、木と共に歩いてきたこの40年間。
今回の出来事は、尚、そこに思いを致すよう教えられたようでした。

 

あの静かな興奮は、私に新たな使命を与えてくれた興奮のでした。

このご縁を作ってくれた方たちに深謝九拝。
あの杉に再会できる日を,とても楽しみにしています。

 

      秋田杉 1メートルの 径の前 静かな興奮 寒空の下

 

 


2020年1月26日