日本のすがた・かたち

2018年8月15日
「治山治水」再考の時かと

40数年前、静岡県伊東市鎌田に造られた「奥野ダム」の管理棟の設計を担当しました。
その折に我が国の水力発電の歴史や実態を知ることになりました。
勿論、ダムに関する仕事は初めてだったこともあり、日本の戦後の高度成長期を支えた電気エネルギー源の殆どが水力と火力であったことを知り、ダムの重要さを思い知らされることになりました。

奥野ダムは「中央土質遮水壁型・ロックフィルダム」という形式のもので、1972年に着工され1989年に竣工しました。
ダム建設に伴い奥野地区27世帯が移転を余儀無くされたとのことを聞き、仕事の重さを一層感じたものでした。

ダムの景観の中に設計する管理棟は、それまで設計してきた建築とはスケール感が異なり、街中や公園、宗教施設とは趣が違います。ましてやその折には茶室の小間席の設計も同時進行でした。
悩んだ挙句、「ダムのシンボル」をテーマにデザインし、設計主旨書を県に提出し、承認を得ました。

この仕事の完成後から、日本の森林と電気エネルギーについて考えるようになりました。
その後、原子力発電に頼り大きな試練を経ながら現在に至っている訳ですが、最近の豪雨や台風による災害を見るにつけ、先人が勧めてきた「治山治水」の重要さもさることながら、日本国土が生み出せる「水力発電」による電気エネルギー確保を再考したらどうか、と・・・。
アリババの会長は、ビックデータは「現代の石油」だといっていますが、日本のダムは「未来の石油貯蔵湖」になる可能性があるのではないかと思います。

自然の有様は人間の尺度を超え、私たちはそれに順応して生きて行く他はありません。どう考えても対抗し、征服は不可能で、過去を見ても予想外の事象ばかりです。

ダムを再考し、改修し、水に逆らうことのない工夫をし、日本の日本による電気エネルギーを創出することがこれからの課題ではないかと思われてなりません。

災害時の流木による氾濫、洪水、土砂崩れなど、水エネルギーの恐ろしさを見るにつけ、森林の管理方法と水エネルギーの確保を30年スパンで考え、実行に移すべく行動を起こす時が来たと思います。

金儲けのための太陽光発電は自然の営みから離れて行くシステムに思えます。
私たちは自然の循環サイクルから遠ざかれば遠ざかるほど、痛い目に遭うようになっているようです。

 

写真:「奥野ダム・管理棟」 ふじのくに静岡県公式ホームページより
http://www.okunodam.jp/

 

 

 


2018年8月15日