日本のすがた・かたち

2020年7月3日
土器は語る

このコロナ禍真っただ中に、しきりに縄文時代の先祖のことを想います。

1975年から始まった青森県大平山元(おおだいらやまもと)遺跡から出土した世界最古といわれる縄文土器は、約1万6500年前のものでした。
この土器がもたらした様々な情報は、今を生きる現代人にはとても新鮮でした。

 

先年、東京国立博物館で縄文展を観ましたが、土器の造形や迫力にも増して世界最古の文明があったことを確認し、興奮したことを覚えています。
それはメソポタミア、エジプト、インダス、中国の「世界4大文明」が覆り、日本は文明を中国から教わった後進地域だったという歴史観が変わった日でもありました。

「そもそも土器は、日本で発明され、西に伝播したのではないか?」
「ヒトも同じように日本列島から西に移動したのではないか?」

 

近年、この疑問を解く発表が続き、現代の研究では、北アフリカで1万年前後の土器遺跡が続々と見つかっていることをふまえ、土器の発明は東アジアの日本列島であり、それが西に伝播していった一方で、それとは別に、アフリカで独自に土器が発明された、という説が有力となっています。
それは、我が国の先祖は1万7千年前から土器を発明し、土と木と石と草をもって住いを造り、定住生活をしていたことを立証していることにもなります。

 

縄文の先祖は、日本列島を巡る海で寒流と暖流がぶつかり合う世界有数の漁場を有し、豊かな森林からは木の実やキノコなどがとれ、さらにイノシシやシカ、ウサギなどの動物も豊富でした。こうした自然の恵みで争うことなく、四季折々の豊かな食物に恵まれていました。
森を切り開き畑にすれば、樹木がなくなり、やがて表面の土壌が失われてしまいます。牧畜でも家畜が草の芽まで食べてしまえば植生が失われ、土壌が劣化します。外国の砂漠化はそれを立証しています。それに比べ、祖先たちは1万数千年以上もこの日本列島で暮らし、しかも豊かな自然を残してくれたのです。
国連のいう「持続可能な開発」〈Sustainable Development〉 という概念は、まさに縄文人たちの生活がそのまま当てはまります。

ポスト・コロナは世界を混迷に誘う可能性が高いといえます。
今、この先を思う時、私たちは先人の知恵に思いを致す必要がありそうです。
それは自然の中で、自然の環境に順応し、自然の恵みを分かち合い、共存共栄を図るということになります。

世は権力行使と暴力による奪自由化の坩堝と化しています。独裁は憎しみを生み、やがて悲惨な滅び方をします。こうして歴史は繰り返していますが。人間の欲望には限りがないことが分かります。

今、縄文土器を水指にした10月の「吟秋の茶事」を企画しています。土器を見ながら数千年の時を想起していると、改めて「持続可能」な木の建築造りに邁進して行かねば、との思いに至ります。そして私が子孫に遺せるものがあるとすれば、これかもしれないとの思いにも。

 

    〽︎ 嗤う他なしこの世のことは とどのつまりのあの世往き

 

写真:上 大平山元遺跡(青森県外ヶ浜町出土)縄文草創期の土器片
中下 人面深鉢土器(勝坂式 縄文中期 伝山梨県北杜市縄文遺跡周辺出土)

 


2020年7月3日