日本のすがた・かたち
現在取り組んでいるデザインの中に照明があります。
もうすぐ試作品ができるのが「夜咄(よばなし)」の茶事に使うLEDスタンド器具で、その他に大掛かりな空間を演出する灯りや、単体のシャンデリヤのデザインを同時進行しています。
私にとっての照明設計は、建築と不即不離のもので、その都度その空間にふさわしい灯りのデザインを心がけています。
先日知人から連絡があり、鎌倉の建長寺の庫裏玄関の灯りが「禅のあかり」だったので嬉しかったとのことでした。
「禅のあかり」は30年ほど前に設計した岐阜の瑞龍寺僧堂改築の際、禅堂で坐禅する雲水のために開発した照明でした。
コンセプトは「明るすぎず、暗すぎる、眼にさわらず」でした。開発チームは何度も旧禅堂で坐禅を組み、目指す灯りを探しました。
「これで結構です!」
「禅のあかり」は、この滴翠軒老大師の一言で製作が始まりました。
完成時に禅堂はこの灯りが一燈ともされました。その後、この灯りは北米照明学会の国際照明デザイン賞に選ばれ、今日まで作り続けられて来ましたが、今年に入り外国向けの英字のパンフレット(YAMAGIWA)が発行されることになりました。日本の和の照明器具であるとのことでした。
先日、六本木の国際文化会館でドイツの照明器具メーカ「BEGA・ベガ」の新作展示会に招かれ拝見してきました。ベガは、私の設計する伝統的な木造建築に多用している器具です。
極限までそぎ落とされたシンプルなデザインと堅牢な品質は、私をとらえて離さないとことがあり、好みのタイプです。
ベガはものづくりの原点を保持し、高い質を求めて進化し続けています。この姿勢は日本の職人によるものづくりの精神と同根のものだと思っています。
日本のものづくりの原点は、効率や儲けの追求ではなく、祈るような思いで創造し、作らせて頂くという天来の意思の作業のように思っています。
国は違え、ベガも禅のあかりもそれによって開発され、それが長い間の支持を得ているのではないか。帰路、そのようなことを考えながら、次に催す茶事に開発中の照明を使い、和のこころに浸ってみようか、と思いました。
灯りさえ あれば色濃き 紅葉かな
写真:上 建長寺庫裏の「禅のあかり」
下 国際文化会館の庭園照明「ベガのあかり」
TP 「禅のあかり」英字パンフレット