日本のすがた・かたち

2009年3月7日
はなむけ

HP-84.jpg散りゆける桜の下に君たちぬ
まなこひらきて道やゆかまし

桜は春を代表する花として君臨しています。
この時期、日本人は花見と称して桜の樹の下に集い宴などを開きます。また、日中だけでなく夜も夜桜の下に集い、春の風情を満喫します。
花見は古くから日本の風物詩になっていて、日本ならではの風習といえます。
そして桜の散りゆくさまは別れのはなむけです。
はなむけは花向けの意味ではなく、鼻向けの意味で、漢字で餞・贐と書きます。
昔、旅立つひとの馬の鼻を行くべき方へ向けて見送った習慣から、旅立ちや門出に贈る金銭や品物、詩歌などをさし、餞別(せんべつ)ともいわれます。
花ではなく、鼻向けでは少し雰囲気を異にしますが、桜の散る時期に別れる縁者に心からの言葉ばかりか詩歌などを贈る風習は美しいものだと思います。美しい生活にあこがれ、それを目指してきた先人の美意識の表れでしょう。
別れを惜しむのが人の世のさだめ。そのさだめの中に門出を祝い、励まし送り出す縁の者。
古から繰り返されてきた愛別離苦の営みに他なりません。その中で、惜別の情感を詩歌に託しそれを贈ってきた日本人は、きめ細やかに移ろう季節の中で泣き、そして励まされてきたように思います。
私は桜の文様が施された衣装を見ると、幾度となく繰り返されている人との出会い、そして別れのさまを思い出します。
爛漫と咲きほこり、そして散る。そしてまた咲きいずる……。
私が故郷を離れるときに贈られた言葉と歌は、終生忘れ得ぬものとなっています。
(重要文化財 「湯女図((ゆなず)」部分  MOA美術館蔵)
                                                                                                                                                                                                                                                    


2009年3月7日