新之介文庫だより

2017年6月21日
近詠・句歌都々逸

 

    山が鳴る 風が唸る 枇杷一つ 

 

    蓮の芽に 思いをいたす 長時雨

 

 我もまた 黄昏時にさしかかる あれもこれもと妖し好まし

 

 来てみれば 人生妙味の下り坂 古稀を跨げば後はアクセル

 

 ぶつからぬ 自動運転面白き 部屋ごと走る日も遠からじ

 

 雨の逢瀬に目を見ただけで どこもかしこも 濡れ急ぐ

 

 濡れているのにつれない素振り 野暮なアナタの 夜の傘

 

 梅干しや オババ伝授の 新しき

 

 君恋し 銀座の柳 明け烏

 

 朝点てる 美味し薄茶や 倖の刻

 

 木漏れ日や またかの別れ 野の仏

 

 ただ鉄の スパナと言えど御教えを 語る建午の席の楽しさ

 

 今更に 口は挟まぬ 桜哉

 

 善し悪しを 決める愚かな日々過ぎて 何も比べぬ今朝の涼しさ

 

 思い出は 悔やむ悔やまぬそれぞれに 肩に桜の散るが如きと

 

 描き飽いて 禅寺の屋根 淡き雲

 

 怖いほどの午後の静けさ 照り返す

 

 待つことをしてみる雲の 行方かな

 

 草いきれ 別れと出会い 夏木立

 

 遠雷や 面影宿す 蓮の露

 

 粋な貴方も今日この頃は ボケの仲間の 野暮な花

 

 黄昏は 銀座の柳 別れ唄

 

 薄闇に 戯れなぞる 闇の先

 

句・歌・都々逸集『緑の洞』近詠抜粋

 

写真:今年初の蓮の華芽

 


2017年6月21日