イベント情報

2017年3月19日
アバンギャルド

IMG_3247.JPG30年ほど茶室の設計をしながら茶事や茶会を催しています。

2、3年前から、自分が理想とする茶碗はどのようなもか、それを作りたいと思っていました。

先日、陶友から3月中に薪で焚く窯があると誘われ、10日ほど前から夜な夜な作陶に励んでいました。

理想とする濃茶茶碗は、「持ちやすく、点てやすく、喫みやすい」というもので、まずは機能を追求し、それに見た目の新しさと、スタイルの良さが備わったものでした。

大きさと口辺は、5人分の濃茶を練るに相応しいものとし、茶巾を入れ、茶筅を入れ、茶杓を掛けて、茶道口前に置き、襖を開けて席中に持ち出す時に、仕組んだものの位置がずれないような作りとしました。

フォルムは今までにないものをと考え、何枚もスケッチをしてみました。

そして機能を満足し、自分で新しいと思えるすがた・かたちに行きつきました。

写真にある生づくりの茶碗3つが出来たてのものですが、焼物は窯から出てみないと判らないというものです。

さて、名品になるかどうか・・・。

19日から窯詰めで、23日から火が入り、来月初めに窯出しとのこと。

5月末に催す「真の茶事」に使えるものが出てくるかどうか、期待と不安が入り交じります。

ebbed6241a63a9c5b8643b68afea80a4[1].jpg桃山から江戸にかけて活躍した本阿弥光悦作の「雨雲」(重要文化財)という茶碗があります。

一般的には〈体部は腰に丸みを持つ半筒形に成形し、口縁上端を平らに仕上げる。全面に黒釉が掛けられるが、一部は黒釉が薄く黒褐色のかせた素地が直接現れる。光悦黒楽茶碗の特色を最もよく示す優れた作品として著名なものである・・・。〉という紹介ですが、私が注目しているのは、茶を喫むという機能が美しく全うされているといえるところです。

光悦の生きた時代の喫茶法は、茶碗を両手で押し抱いて拝むように飲むというものでした。「雨雲」はその機能を果たしながら、従来になかった茶碗の新機軸を打ち立てたものです。天才光悦は「用と美」を生み出した我が国最高の芸術家のひとりです。

ものの機能をとことん追求して行くと、やがて機能美といえる美しさの領域に至ります。自然界に存在するものは機能美そのもので、美の基準が機能になっているといっても過言になりません。

こけおどしの奇抜なデザインや、説明がなければ何もならないものが溢れる昨今。技の巧拙や材料、製作環境以前に、作者の思いや願い、人間性の魅力がアバンギャルドの造形につながるということを改めて感じた作陶の数日間でした。

何はともあれ、直ぐにでも使いたくなるような茶碗が出てきますように、祈るばかりです。

写真:下 本阿弥光悦作「雨雲」(重要文化財)

 

 

 


2017年3月19日