日本のすがた・かたち

2019年9月17日
川越、行き合いの空

先日、埼玉県川越市近郊にある遠山記念館を訪ねました。

旧遠山家住宅は、日興證券(現SMBC日興証券)の創立者である遠山元一が生家再興と母の安住の住まいとして、1936(昭和11)年に居住部分を建て、その後、茶室など造営されたものです。
東棟は生家の再興を象徴する豪農風、中棟は貴顕の来客を接待する室礼の書院造り、西棟は母のための数奇屋造りという異なる趣の3棟を連結する設計で、各棟とも多様に吟味された良材を使用し、卓越した技術が駆使されています。

2000(平成12)年に茶室など9棟が国の有形文化財に登録され、2018(平成30)年には国の重要文化財に指定されています。現在の「遠山記念館」は、重文の「紙本著色三十六歌仙切(頼基)佐竹家伝来」などで有名な遠山元一の邸宅と美術コレクションをもとに、1970年に開館したものです。

私は数年前に伺い、美術館の依田学芸員に詳細な説明を受け、優れた建築を造った人たちに思いを馳せました。特に兄弟が、没落した遠山家の再興を願い、苦労を重ねた母親のために土地を再取得し、母親が老後に安住できるよう造営した思いが建築のすがた・かたちに現れていたことに、感動したことを覚えています。
今回も、「建築の良し悪しは、造ろうとする人たちの誠意の総量で決まる」、と改めて思いました。兄弟の母を思う気持ちが全てを創ったのだ、と。

 

茶道や建築関係者は夫々の感慨を持たれたようです。
同行された建築家の及川博文さんは、
「ー場所毎に部材同士の組み合わせや素材の対比なので構成される空間は、その一つ一つが丁寧にデザインされ、豊かな発想力と造形の美しさはどれも目を見張るものでした。
図録のきれいな写真からは掴み得ない、自らの身体で空間を確かめる事の大切さを再確認しました。
何よりも、そうした希少材を駆使した職人の高い技量と創意のエネルギー、さらにいえば造営主の強い願いが結晶化したものだと実感しました。
一方、結晶度が高い建物ほど雨漏りシミ等の残念さは、大きく心に残ることも感じました。—」。
との一文を寄せています。

優れた建築は、時空を超え、多くの人々の精神に、良質な影響を与え、そして品格を高めて行きます。
優れて美しいものに触れた時、人間の品性は高まるようです。バスの窓から黄昏の景色を見ながら、文化芸術こそ、和を尊ぶ人間にとって最も必要な要素なのだ。そう思いました。

私も気合を入れなくては…。

 

        遠山の屋敷を母の住処にと 子等の思いか行き合いの空

 

写真:上 遠山記念館 表門(長屋門)

下 内部座敷 撮影 H・ Oikawa

 

 

 

 

 

 


2019年9月17日