日本のすがた・かたち

2019年7月7日
京の北山杉

我が国は国土の70%が森林で覆われています。
その森林の中で木と呼称されるものはおよそ500~1500種(数え方は色々)で、中でも建築用材として使われているものは約20種余といわれています。

材種は杉、檜、松、檜葉、栂、樅、椹、桂、栗、楢、桐、欅、榀、槐、桜、栃、楓、椿、槙、樫、ブナ、タモ、そして黒柿や材の希少部分などの銘木類で、先人は建物を造る際、適材適所に材を配し使ってきました。
最近では遺跡の発掘などから、1万2千年前の縄文時代より前の旧石器時代から木材を利用した生活があったことが判っていますが、現在に至っても、列島に住む日本人は木と共に暮らし、生きている感があります。

 

縄文から日本の木造建築は様々な変遷を経てきていますが、中でも特別な意識と価値で今日に至ったものに茶室建築(数寄屋建築)があります。
思うに、日本の茶室と呼ばれる建築は世界に類例がなく、先人が工夫に工夫を重ね、美意識に包んだ趣向を総動員して造営した稀有な建築といえます。

 

茶室とは、茶の湯という儀礼・儀式を秘め、神道、日本仏教、皇室という日本文化を発現したもので、特に小間席という極小空間は、日本人の特性が美しく結晶したエネルギーのかたちといっても過言になりません。
そして日本人が好む銘木です。
世界の植物は30万種。木は10万種とも。その中で日本の茶室建築において最も象徴的な木材は京都の北山で作られてきた「北山杉」という銘木にとどめをさします。

室町時代から始まり、茶聖千利休が活躍した桃山に花開いた茶室の構成材として、先人が美意識を洗練させながら明治から昭和初期にかけて創作した杉の磨き丸太こそ、令和に至る象徴的な木といえます。

 

先日久し振りに、その京都北山を訪ね六度目となるご神木を拝してきました。
同行した若者たちも樹齢六百年の元祖北山杉の威容に圧倒されたようでした。

現代は、何でもスマホ、インターネット頼りの暮らしとなりました。私も何時の間にか命の次に大事なのはスマホになり、洪水のように押し寄せる情報に振り回されている自分の姿を自嘲気味に見ています。
北山の杉木立や大樹に会って、「知る」という日常ではなくて、「体験」という時間軸が復活した思いがしました。北山杉の磨き丸太の得もいわれぬ触感が、一週間経った今でも残ります。

「北山杉」は茶の湯という我が国固有の文化が生み出した美材。
私は、今回の北山行きで、この美材を頼り改めて日本の木造建築を創り続けたいと思いました。

案内して頂いたのは創業から160年、京都上立売の「松文商店」の吉村栄二社長。
既に30年ほどお世話になっていますが、今回も吉村社長から多くを学びました。

 

きっと、日本列島の森林を頼り、まちづくりや環境問題に対応できる日が来ると思っています。

 

写真:300年前の北山台杉と吉村社長と 撮影:H-OIKAWA

 

 


2019年7月7日