日本のすがた・かたち

2017年10月2日
首長、文化財をみがく

 

先日、熱海市内にある国の登録有形文化財の「東山荘」を皆さんで磨いてきました。

私は講師で参加し、主催は「名建築・みがき隊」(及川隊長)ですが、第4回目に熱海市の斉藤栄市長が参加しました。
私の知る限りでは、全国の首長が自ら文化財を磨くのは初めてだと思います。
斉藤市長はみがき隊のメンバーに交じって、東山荘本館一階の座敷の床の間周りを担当しました。
背の高い市長は、普段手入れができないところなどを磨き、文化財の手入れをしながら、先人が遺してくれた遺徳を実感されたようでした。

建築は時代と共に変わり、時代を反映しながら造られます。それは長く残るものは残り、数十年で壊されるものもあります。
昨今は、特にその壊さなければならないような建築が多くなり、少子高齢化と共に我が国は廃屋列島の様相を呈してきています。

そのような時代に遭遇していて、今、住いを始めとする建造物の在り様に警鐘を鳴らす動きが出てきています。
「新たに造らず、在るものを生かす」という動きです。
30年も経つと産業廃棄物になるようなものは極力造らず、先人の遺してくれた優れた建造物を見直し、それを活かし保存し、後に伝えて行こうというものです。

この考え方は理に適っていると思いますが、これは簡単なようで、実はどのようにしたら良いのか、今ひとつわからないというのが実態です。
そこで「みがき隊」の出動となるわけです。

私が建築家を目指す若者に伝えているのは「手入れ・みがき方」です。
建築は完成した瞬間から、古く朽ちて行く定めにあるので、それを永らえるようにする術を持っているべき、ということです。
それは先人の叡智を継承し、文化を伝達することだと話しています。もしそれを実感したかったら自分自身の手足で建築をみがくことだと。
「素材を知り、汚れ風化の程度を知り、そして磨き加減を知る」。この三原則を伝えています。水と湯だけでシンプルにと。

今回のみがき隊に参加された熱海市長は、この実感を得て文化財の保存活用行政に邁進されるはずです。全国の文化財の保存活用がこのような首長先導で行われるようになれば、と思った東山荘・みがき隊でした。

 

写真:上 斉藤市長・東山荘床の間をみがく

下 みがき隊グッズのエプロン姿で、市長と及川隊長(熱海市長室)

 

名建築・みがき隊HP
http://migaki-tai.org/

 


2017年10月2日