日本のすがた・かたち

2017年8月29日
名建築・東山荘

JR熱海駅から徒歩で10分ほどの所に、築80年の別荘建築があります。熱海市内に往時のままで遺る別荘建築群は珍しく、昨年、物置も含め7棟が国の有形文化財に登録されました。名称を「東山荘(とうざんそう)」といいます。

昨日、ここの本館で、所有者団体の担当メンバー10名の方たちと、日本建築と東山荘について語り合ってきました。
テーマは、登録文化財となった東山荘の一般公開に向けて、どのように紹介し、また熱海市との協力体制をいかに作ろうか、というものでした。

私は、東山荘の文化財登録の経緯や建築文化、歴史的価値、日本建築のすがた・かたちについて話し、また箱根よりここに住いを移された岡田茂吉翁の美意識について発言しました。

また、ひとつの建築にはストーリーがあり、中でも優れて遺されたものには、美しいと形容できる心地良い緊張感が漂います。この心地良い緊張感こそが人間の品性を高める作用を促すと私は思うところがあり、美しい建築を拝観する人たちはもとより、保存し活用する人たちも皆、この緊張感を享受し合うことにより、先賢の叡智に身を浸す喜びに出会うことになる、と話しました。

先人は身の回りの素材をもって住いや集まりの場を造り、安全、機能を充たしながら、美しさを追い求めて行く・・・。これが建築の本来のすがた・かたちといえます。
文明の進化により地の果てにある素材や無機質な人工素材を調達できるようになった昨今は、廃棄物と格闘し、汚染物質と共存する文明と化しています。また、生きものの殺傷を忌み嫌いながら、毎日牛、豚、鳥などを屠殺し食べている人間の生存への矛盾は消えることなく、私の中では、建築の保存と廃棄物と汚染との兼ね合いを考えることと重なります。

人は皆、自分の生存と生殖に関する行動に矛盾はなく、人を殺めることも含め本能の実践です。
2500年前、これを「苦」として諭した釈尊の教えも、現代には功を奏していないようです。

「人間の品性を高めるには美しいものにふれること・・・」という岡田茂吉翁の言葉が響きます。

デスカッションを終え、帰路(美しい建築を造りたい)そう念じていました。

 

写真:東山荘本館

 


2017年8月29日