Sのプロジェクト

2019年10月1日
三島というところ

建築を体感して、心から“素晴らしい!”と思うとき、一体何に感動するのでしょうか。

内部空間のダイナミックさ、素材や装飾の豪華さ、プロポーションの美しさ、ディテールの細やかさ、周りと調和のとれた佇まい、また時の流れによる歴史や文化を感じて……
などなど。
これら全部ひっくるめて良いと感じたり、理由はよく分からないけど惹きつけられるということもあるかもしれません。

こうしてみると、個々の主観的な好みは別として、建築を素晴らしいと感じる要素はいろいろあるようです。
それらは、作り手(クライアント、建築家や施工者)の努力やセンスでどうにかなることと、それだけではどうにもならないことがあるような気がします。
この、どうにもならないことの一つに、立地条件(ロケーション)が挙げられます。

 

建築は、絵画や陶芸など他の造形芸術作品とは違い、地面に建って初めて成立するものですから、周りの環境も含め場所性は非常に重要な問題になります。
ですが、明確に形づくられた建築に合わせて場所を選ぶということはまずできません。

三島御寮のプランを見たとき、洗練された無駄のないスケッチと、立地の素晴らしさのマッチングに心打たれました。
富士山をバックに、高さを抑えた美しい屋根が連なるプロポーション、本物の素材と技術を駆使した木の建築。
そこは茶の湯を、日本文化を体感できる未だかつてない場所。
人々が生き生きと集う様子が目に浮かびます。
そして、三島大社や楽寿園などの文化施設が地元の人々に愛されている背景。
三島というまちの自然の美しさやほどよい町のスケール感が、三島御寮の概念にピッタリときたのです。

立地条件の素晴らしさを手に入れた三島御寮。
この場所に建つことができたのなら、建築が場所を選んだ数少ない一例になるのではないでしょうか。

 

望月美幸(もちづきみゆき 建築家・JIA会員)

 

 

 


2019年10月1日