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2019年3月26日
快楽に耽る

このところ仕事の合間を見て作陶に勤しんでいます。
先日、萩の生作りの茶碗や水指が出来て、未だ未乾燥ながら素焼きをする日程もあり、窯場に持って行く日程も立てられず、と思案していましたら、有難いことに陶芸家佐々木泰男さんが自ら遠路取りに来てくれました。
5月の窯は萩、丹波、黒泥の土で、いずれも次回予定している茶事の道具類を焼いてもらうことになっています。

 

毎年恒例になっている茶事・茶会も、もう既に三十年余で200回余に及びます。
この遊びの面白いことといったら他の追従を許さず、私にとっては生涯の快楽といえます。

人は「良く面倒くさいことをするな」とか、「大変ではないか」などと心配してくれますが、私にはその面倒くささや大変さが快感で、そのワクワク感にたまらない魅力を覚えています。

 

先日書いた書が「如何一会・(一会いかが?)」。それを読んだ客が「一回どう?」と。
爆笑でした。

 

 

去年試しに使った長板と水指。
長板は縁あって頂いた新潟県産の黒柿(樹齢三百年以上)を炉用寸法に仕立てたもの。
この黒柿の景色を持つ材は5万本に一本といわれる高級材で、銘木中の銘木とされるものです。板材のカットには慎重を期しました。
仕上げて見ると、右に月の富士山と思しき景色があり、まさに海上から観た駿河湾の情景と見えます。即座に能「羽衣」の一節から「月の清見潟」と命名し、墨書しました。

 

水指は縄文中期の火焔土器です。これは新潟県の信濃川流域の十日町付近馬高遺跡出土で、紀元前3000年、約5000年前のものといわれます。
これに中子を仕組み、水指に仕立てたものです。

 

茶事の楽しみには道具の準備もあり、毎回の道具組の作業は、建築の設計作業に似るところがあります。想像が限りなく膨らむところがとても似ています。。
全ては「客(施主)が喜び、楽しむことになるように」、と。
それを見て、亭主(建築家)は喜びを多とする、と。

 

茶事は緊迫した4時間の中で、人と交わり、我がことを知る儀礼・儀式。
人間は、「仲間になりたい」、「知りたい」、「生きたい」、「伝えたい」、とする生きもの。
思うに、日本人が発明した茶事は、これら4つの要素が全て網羅されたものといえるようです。

 

人間の品性は美しいものとの出会いでしか磨けない、とは先賢の言。
作陶しながら、お招きする方の顔を想い浮かべながら、今、土の官能的な感触に酔っています。

 

写真:黒柿の長板 自作
下 水指(縄文中期の火焔土器)

 


2019年3月26日