二人の仲ね
「兵ちゃんこんばんは。タマ、今夜は暖かそうね」
「姐さん寒くなってきたね」
「もう立冬も過ぎて、そろそろ兵ちゃんの好きなおコタの季節ね」
「タマもコタツ好きだニャーン」
「兵ちゃん今夜はアタシの今の恋心都々逸でいいから」
「寒くなってますます燃える恋心、歓迎します」
「こんなのは、…ん」
電話かかってきた日が嬉し 逢える日までの夢心地(412)
「ほほう、姐さんまた始まったね」
「そうよ、所帯がもてるような方よ」
「もう誰でもいいんだニャーン」
「コノヤロ―、また絡みだしたな」
「姐さんこんなのはどう、…ん」
少ある日突然胸ときめかす 恋の船出に道は無し(413)
「そうなのね。恋は不安の道行きね」
「だからいいのかも知れないよ」
「タマも分かるニャーン」
「お前の不安は誰が相手か分からないからだろ」
「タマ不安ニャーン」
「それ見ろ」
「姐さんこんなのは…」
気にも止めない人だったのに 今じゃ止まり木金のツル(414)
「あら、色気のない兵ちゃん。だけどウフフかもね」
「この辺が男と女の妙味かな」
「じゃアタシからね」
待っていたのよこの夜のことを お金も持ってきたかしら(415)
「いいね勝負の夜。現実的で。人間何があっても食べることが大事からね」
「アタシは若い時ね、毎日食事ができることが一番の幸せだって分からなかったわ」
「皆そうだよ。空気の有難さが分からないことと一緒だね」
「父が食べものを運んできてくれてたことを歳とってから分かったの」
「そこから感謝というものが湧くんだけどね」
「食べ過ぎは感謝がない証拠だわね」
「タマ、気をつけるニャーン」
「おう、タマメタボ。殊勝なことをいうじゃないの」
「姐さん今夜は二人都々逸にしてみようか」
「まあ難しいけど素敵ね。兵ちゃんからお願いね。間が開いても続いてみるから」
君は華街(はなまち)牡丹のツボミ 貴方咲かせる南風(416)
「いいねえ。これがほんとの掛け合い都々逸の真髄だね」
「アタシもようやく兵ちゃんとひとつになれるような気がしてきたわ」
「それ無理なことニャーン」
「バカタマ!お前はメスだろ、女の気持が分からないのか!」
「タマは分かって言ってるんだよなあ」
「まあ兵ちゃんて優しいこと。妬けるわね」
「もうひとつ、…ん」
何時の間にやら二人の仲は 時をおかずに口移し(417)
「あら、太宰治の『人間失格』みたいな妖しい雰囲気になってきたわね」
「この辺から人生の分かれ道だな」
「そうして道をはずすのね」
「タマ、はずさないニャーン」
「タマがはずせる分けがないだろ??」
「もうひとつ、…ん」
唄も聴きたし踊りも見たし 主が望めば足袋もぬぐ(418)
「貴方が望めば足袋も脱ぐか…。男冥利に尽きるね」
「兵ちゃん都々逸じゃなくて実践でどうかしら」
「うーん、姐さん今夜は迫るね」
「もう先がないからニャーン」
「バカタマ! お前は一番いい時に出てくるんじゃないよ」
「姐さん、今夜の月も良さそうだよ」
「兵ちゃん少し回り道して送って下さる」
「隅田川の畔でも歩こうか」
「今夜は月が青そうね」