花火がドドーン
「兵ちゃんこんばんは。墨田川の花火、良かったわね」
「うん凄かったね。2時間弱で2万発ってのも豪勢だったね」
「最後の5分で3千発は圧巻だったわ」
「タマもたまげたニャーン」
「お前はどこで見てたの?」
「屋根の上で彼とニャーン」
「じゃ今夜はタマに唄ってあげるわね」
「姐さんタマにゃやさしいニャーン」
離れて座って花火のたびに ドンッと近づく恋ごころ(363)
「姐さん花火都々逸いいね~。だけどそれって下心じゃないの」
「恋心ってのがきれいなの! 兵ちゃんもやって」
「そうだなあ、こんなのは、…ん」
ドドーンドドーンと胸打つ音に なぜか今夜は仕掛けられ(364)
「仕掛けられたような振りして近づくのね」
「花火は男と女の切っ掛け作りに最高だね」
「兵ちゃんもうひとつお願いね」
スターマインが夜空に咲くが 君の花には勝てはせぬ(365)
「まあ嬉しいこと」
「それってタマのことニャーン」
「お前はいつも勘違いなんだよ。アタシを出し抜くと三味線の皮だよ!」
「磯千代姐さんもどう?」
「じゃ、…ん」
線香花火がポチリと落ちて 闇に紛れた手が燃える(366)
「二人で線香花火か…。若い頃を思い出すなあ」
「60年も前のことを思い出したの…」
「よし、ボクがひとつ、…ん」
仕掛け花火の音だけ聞いて 映る目と目の奥を見る(367)
「まあお洒落だこと。花火を見てないでお互い目を見つめるのね」
「一瞬でなくなる人生だもの、互いを見つめる儚い恋…」
「それって疼くニャーン」
「お前が疼いてどうすんのよ」
「タマ疼くニャーン」
「バカタマ!何時もお前は、何か勘違いしてるんだよ」
「姐さんひとつ」
「じゃ、夜じゃなくて明るいこんなのは、…ん」
蝉が激しい真昼の座敷 閉じて静かな膝枕(368)
「夏座敷の昼下がりだね。いいねえ~膝枕なんて、色気があって」
「兵ちゃんしてみる?」
「うん有難う。“今度”頼むよ」
「まあ“今度とお化けは出たことない”っていうわね」
「ア、ハッハッハッハッ。逃げがバレてるね」
「まあ、奥さんに遠慮して、憎らしい方」
「じゃ、お詫びに一身上の心境を…」
蝉が恋する真昼の樹にも 動く歩けぬ辛さあり(369)
「いいわね~。お立場よく分かるわ、素直な兵ちゃん!」
「隅田川を浴衣で歩くって最高ね」
「姐さん妖艶で歳を感じさせなかったよ」
「だから言ってるでしょ。女は歳じゃないって」
「お化けだニャーン」
「タマ、アタシの美貌に妬いてんの」
「姐さん夜風に当たりながら送ろうか」
「嬉しいわ、アタシ兵ちゃんと夜道を歩くのが好きなの」
「都々逸でも唄いながらで…」
「今夜は日食にならないかしら」
「無理だと思うよ??」