ゆかた姿でね
「兵ちゃんこんばんは。タマもオコンバンハ」
「姐さん呂の着物が涼しそうだね」
「夏の着物は本当は暑いど、慣れてしまえば同じね」
「慣れねえ。エコが叫ばれている世の中には貴重な発言だね」
「みんな贅沢に慣れちゃったのよ。戦前のことを思えは極楽でしょ」
「贅沢を少し控えればエコだ、温暖化だって声高に叫ぶことないのになあ」
「タマはエコ生活だニャーン」
「お前は子づくり専業だからでしょ」
「姐さんひとついってみようか、…ん」
蚊帳の中から声かけられて 浴衣姿で蚊と入る(349)
「兵ちゃん、こんな時があったんでしょ。蚊が一緒だなんて」
「クーラーなんてものがなかった頃だね」
「蚊帳の中で浴衣姿、団扇をもって入れよって。…粋だわねえ」
「姐さんもひとつ、どう」
「思いだしてね、…ん」
浴衣姿で並んで歩く 月が見ている恋もある(350)
「人目を忍ぶ淡い恋だな。姐さん純情だったんだな」
「アタシの15の頃よ、もう嬉しくて嬉しくて」
「今じゃ男だましじゃニャーン」
「コノヤロ、お前には純情ってものが分からないの!」
「姐さん可愛かっただろうな」
「そうよ、深川小町っていわれてたのよ」
「もうひとつ、…ん」
蓮の華でも勝てないものは むすめ蕾の十五、六(351)
「娘の十五,六は匂うような美しさだものなあ」
「タマも匂うようニャーン」
「お前の匂いは違うでしょ、今度はアタシね…ん」
鳴いて縋るか黙って光る 蝉とほたるの根くらべ(352)
「古典の本歌取りよ。兵ちゃんどちらの女性がお好み?」
「“帯に短し襷に長し”だなあ。磯千代姐さんぐらいがいいかも」
「あら、アタシは黙ってひかるホタルの方よ」
「信じる分けないニャーン」
「このバカタマメタボ! お前はこの頃出番が多いんだよ」
「こんなのは、…ん」
今は気になり何時もは知らぬ ホタルの光り蝉の声(353)
「その時だけ、現金だなあ。共に短い命だね。人間も同じだね」
「蝉もホタルもその時を生きてるだけでいいのよ」
「人間もだよ。その一瞬、一瞬を精いっぱい生きるんだね」
「兵ちゃん今夜は永平道元さんみたいにいいことをいうわね」
「姐さんどう?」
祭り太鼓が夜空を駆けて 下駄の音にも恋の節(354)
「いいね、綺麗だねえ。恋のメロディーだね」
「浴衣に下駄を履いて、ウキウキ胸が弾むと下駄も弾むのよ」
「それで、胸が大きくなったんだね」
「あら、はずかしい」
「揉まれ過ぎだニャーン」
「コノヤロ、タマ、潰してしまうよ!!」
「じゃボクが、…ん」
磯千代姐さんスリムで小粋 唄が達者で目で殺す(355)
「まあ、兵ちゃん有難う、嘘でも嬉しいわ」
「姐さんは幾つになっても妖艶だからね。唄も年季が入らないとね」
「そうだニャーン。年寄りニャーン」
「タマ、こちらにおいで~、優しくして上げるからさ~」
「姐さん、梅雨の最中の今夜の都々逸は良かったね」
「再会してから、もう一年過ぎたわね」
「光陰矢の如しだね。もう大分都々逸つくったね」
「一度まとめて本にでもしてもらおうかしら」
「タマ、タマゲルニャーン」
「姐さん送るよ」
「有難う。もう直ぐ大暑ね」