月明かり
「兵ちゃんこんばんは。タマも相変わらずね」
「姐さん日本国中花見の真っ最中だね」
「そうね、国をあげてのお花見なんて世界中にないわね」
「日本人だけかも知れないね」
「今夜はさくら都々逸でいきましょうか」
「うん、いいね、…ん」
淡い思いで心が染まる 桜堤の二人連れ(293)
「淡いピンク色ね、きれいだわ」
「桜並木に水の流れがあると絵になるね」
「好きな人と歩くのがいいわね」
「そうだね、嫌な奴だと桜がきれいに見えないからなぁ」
「こんなのはどうかしら、…ん」
川面に映る桜の花が 濡れてる鯉(恋)を見てそよぐ(294)
「流石姐さん、決まってるね。鯉は水の中でも濡れるんだ」
「兵ちゃん野暮なことはいいっこなしよ」
「そうだな、いってみようか、…ん」
月の明かりで観る桜さえ 君の笑顔にゃ勝てやせぬ(295)
「上手いわね。兵ちゃん夜桜で彼女に迫ってるのね」
「夜の桜は妖しい雰囲気があるからね」
「こんなのは」
桜吹雪が舞い散るなかで 影が寄り添う月明かり(296)
「花が散るか……。その儚さがたまらないなぁ」
「タマもたまらないニャーン」
「バカだね、タマには恋の儚さなんて分からないのよ」
「タマ、疼くニャーン」
「タマの疼きはこれと違うのよ!」
「よし、ボクも散るのをひとつ」
桜吹雪が舞い散るなかで 袖が離れる濡れている(297)
「同じ掛け都々逸ね。やっぱり恋が散るのが似合うわね」
「磯千代姐さんは何度袖を濡らしたの」
「初っちゅうニャン」
「このヤロー。お前と違うんだよ」
「姐さんのその時の心境を唄おうか」
「兵ちゃんお願いね」
生涯を 恋に生きると思いはしたが 散るか今宵の桜花(298)
「まあ素敵、その思いも桜のように一瞬に散ったのよ」
「姐さんもいい恋をしてきたようだね」
「そうね、皆素敵な思い出ね。あの人も、あの方も…」
何時も逢いたいそう思っても 散った桜の恨めしさ(299)
「覆水盆に返らずね。一度起きたことはもう元には戻らないのね」
「桜が散った後のそこはかとない寂しさもね」
「アタシって、来年も桜が見られるのかしらってね」
「姐さんは未だツボミだろ、心配ないよ」
「兵ちゃんって優しいのね」
「夜の桜を観ながら送ろうか」
「月がきれいな夜だわ…」