濡れるおもい
「姐さん今晩は」
「兵ちゃん今夜もお座敷かけて頂いて有難う」
「この頃不景気でお客が少ないみたいだね」
「そうよ、若い芸者もお茶っぴきで…」
「芸者が暇になるとお茶を挽くか、粋な言葉だね」
「それにしてもみんな暗い顔してるね」
「こんな時こそ芸者遊びをしなくっちゃダメよね」
「姐さんそれって我田引水ってやつだよ」
「この前ね、ここでお客さん同士が口論になったの」
「へー、どうしたの」
「ちょっとした言葉の行き違いなのよ」
「口から出るものは諸々の悪行の根源ていうね」
「ホント、こんなのはどうかしら」
口と耳ならタダでも済むが 口が出たとき高くつく(271)
「ウン、おっしゃる通り。口からでる言葉が命取りっていうね」
「総理大臣も野党の党首もみんな口でやられるのね」
「財務大臣もロレツの回らない口でやられたね」
「うるさい女の人の口ってどうしたらいいの」
「見て見ぬ振りって、昔の人はいってるね」
「兵ちゃんやって」
好きな人ならホントのとこは 見ない聞かない話さない(272)
「見ざる聞かざる話ざるの三猿ね」
「これが出来るには成熟した大人の色気がいるね」
「アタシゃ今が成熟の盛りだわ」
「ウソいってるニャーン」
「タマ、マタ出てきたね」
「タマも盛りニャーン」
「お前のサカリは違うサカリでしょ」
「タマ、疼くサカリかもニャーン」
「どう姐さんひとつ」
見えないものがあるのがいいの みんな見たがる不幸者(273)
「そうだな、見ると不幸になることがいいいんだな」
「こんなのは、…ん」
知らず見えないところがあれば その分だけは倖ね(274)
「幸と不幸の分かれ道ってやつだな」
「兵ちゃんやって」
そっとしておく優しいボクは いつもふられる羽目になる(275)
「まあ、嘘ばっかり。何時振られてるの」
「一生振られる人生だね」
「じゃもうひとつ」
振られ振られてここまで来たが 振られ姿の袖の良さ(276)
「袖にする良さって、やっぱり粋だわね」
「袖にされてるのはボクだよ」
「上手いことおっしゃって、逆の意味くらい解るわ」
「姐さんは哲学者だね」
「違うニャーン、ババ学者」
「タマ、また口をはさむんだね。軽くて重症だよ」
「姐さんもうひとつ」
「それじゃ、…ん」
この袖を濡らし振らせる憎いひと 濡れる思いの春の雨(277)
「やっぱり奇麗にまとめるね」
「この頃濡れる思いが出てきたの」
「へー、春雨のような?」
「そうよ」
「花粉症の鼻水で濡れてるニャーン」
「コノヤロー、それじゃ色気がないだろ」
「もともとないニャーン」
「ん、もう遊んでやらないから!」
「姐さん血圧があがるよ。タマ、今夜はこれでね」
「タマ、待ってるニャーン」
「妬けるわね」