また会うなんて
「兵ちゃん今晩は。ねぇ会ったのよ!」
「借金取りに?」
「野暮ねぇ。昔別れたカレよ」
「へー、何処で」
「それがお座敷帰りのクラブでよ」
「姐さんがクラブ? 老人介護クラブ?」
「違うわよシャンソン歌ってるとこよ」
「都々逸でやってみたら」
「こんなのどうかしら、…ん」
久しぶりだわまた会うなんて いいわ隣で飲むくらい(278)
「何か歌の文句みたいでいいね」
「兵ちゃんも何時もの即興でお願い」
ここで会うのも何かの縁ね 皮肉すぎてるこの出会い(279)
「そうなのよ皮肉過ぎるわ、そこって別れた場所なのよ」
「何年前のこと?何人目の彼」
「何人目って、みんな初めての彼よ」
「乱交芸者ニャーン」
「タマ、お前と違うのよ!」
「タマ一人?だけニャーン」
「またアタシを怒らせる気なの」
「懐かしさだけ残っていたんだね」
「そうよ、こんなの、…ん」
懐かしさだけ置き去りにして 駆け抜けてゆく時もある(280)
「そうだ、あるんだよな」
「その時カレに女ができたのよ。聞いてやったわ」
「こんなにいい女はいないのにね」
あの日の人は続いているの それとも別のあの方と(281)
「姐さん優しんだね」
「もう何十年も前のことだもの」
ほどほどにして身を固め 思いかためて、どう、やり直したら(282)
「姐さん未練がましくていいね。女の匂いがするね」
「そしたら彼って、もう少しでお迎えが来そうだから無理だって」
「こんなかな、…ん」
やり直してもまあ同じこと あの日の頃に戻れない(283)
「故事にあるね、覆水盆に返らずだね」
「でもね、いい歳してクラブに来るなんていいんじゃない」
「尊厳死協会にでも入っていそうだね」
「カレはそんな不粋じゃないわ。もっとカッコいいのよ」
「武士の潔さが身上だね」
「そうよ素敵な枯れかたよ」
「それで…」
それでも何時か会う時までに あなたの幸を祈ってる(284)
「いい男だったんだね、その人」
「そうよ兵ちゃんみたいな人よ」
「姐さん上手いね。姐さんの代弁で唄おうか」
「お願いやって!」
忘れた頃にまた出会ったら 口づけの日が蘇がえり(285)
「兵ちゃん有難う。いい思い出はいいわねぇ。今でも胸がときめくわ」
「この胸のときめきだね」
「そんなの年寄りのヨロメキニャーン」
「バカタマ、お前になんかに良さが分からないのよ」
「タマもよみがえるニャーン」
「姐さん、今夜の直球都々逸はシャンソンのようだったね」
「そうよ、都々逸は日本のシャンソンだもの」
「今夜はそこのクラブへ行ってみようか」
「まあ嬉しいわ、お願い連れてって」
「ボクがその元カレになりきってみるかな」
「タマ! なんて格好してるのよ」
「シャンソン歌いに行こうニャーン」