夢なのね
「兵ちゃん今晩は。今夜は珍しくスーツね」
「背広も少しは持ってるんだ」
「背広って古いニャーン」
「タマ、生意気いうんじゃないの」
「姐さん生意気っていえば、友人が部下に生意気な奴がいて困ってるって」
「仕方ないわ、生意気と錯覚は人間の特権なのよ」
「そうだね。人間は誤解と錯覚のかたまりかも知れないね」
「そうかもね。アタシなんかそれで人生別コースになったのよ」
「どう、都々逸で」
「こんなの、…ん」
何もないのにあるよに言われ 言われついでの雨宿り(227)
「そうか、それで道が逸れたのか」
「その人がやきもちやきで、何でも自分のことに当て嵌めてるの」
「まあ、誰でもそんなところかも知れないけど…」
「兵ちゃんはなかったの?」
「そうだね、…ん」
鬼門方向に歩いていたら 女一人が目で招く(228)
「これって、ちょっとこわくない?」
「相当怖いね。いい女だったけど」
「それでどうなったの? 誤解されたの?」
「さあーね。ボクは不思議と救われることがあるんだ」
「誰かが守護霊となって…」
「そうなんだ。どうも死んだお袋がどこかで守ってくれてる気がする」
「素適なことね。殿方が道を外すのは守護霊がいない時よ」
「守護ねぇ。姐さんにはなかったの?」
「誤解の神様が居ついてたのね」
道が別れた二人のさだめ 別れて良かったこともある(229)
「姐さん、楽でいい人生観してるね」
「ホントはいいことばかりじゃないけどね」
「まあ、人生半々だね」
忘れたいのよあなたのことは 忘れないから忘れたい(230)
「姐さん、分かるなぁ。夢に出るんだね」
「兵ちゃんもやって」
またも涙が出て止まらない 思い出してる母の笑み(231)
「兵ちゃんはやっぱりお母さんが出てくるのね」
「母は強いニャーン」
「タマ!子どもをつくってからいうのよ」
「つくり方は知ってるニャーン」
「バカタマ! 兵ちゃん口直しで」
知ってる筈なしあのことだけは だけど寝言で話てた(232)
「人間はウソをついても寝言でしゃべるって…」
「寝言が真実じゃないのにね」
「いや、高山寺の明恵上人じゃないけど、夢の中が真実の人生かも知れないね」
「夢日記ってやつね…」
「ボクは夢の中で人生を過ごしてきたような気がするね」
「夢と現実は一緒かもね」
「どちらが夢で、どちらが現実か、分からないね」
「人生、夢まぼろしの如しって信長も謡ってる」
恋しいカラスと所帯をもてば 夢のほつれが早く来る(233)
「やっぱりアッホーか、夢がなくなるとつまらなくなるのね」
「夢が人間を生かしているからね」
「人間、夢があるうちゃ大丈夫ってことね」
「そうだね」
「タマも夢があるニャーン」
「どんな夢?」
「いい男がくる夢ニャーン」
「タマは夢があっていいね」
「兵ちゃん、猫にもあるの?」
「タマの目に映ってる。夢が有るって」
「角まで送ります」