ふとした出会い
「兵ちゃんこんばんは」
「姐さん今夜は何となく楽しそうだね」
「そう見えるかしら、やっぱり!」
「何かいいことでもあったの」
「昨夜のお座敷で思わぬお人に会ったの」
「タマらニャイんー」
「タマはだまってなさい!」
「どんな人?」
初回惚れしてワシャ恥かしい 胸の熱さに身を焦がす(213)
「遊郭言葉だな。そうなんだ、一目惚れか、尋常じゃないね」
「またお会いしたいと思っていた人なの」
「目が垂れてたニャーん」
「このタマめ!」
誰でもあるがふとした出会い それが生きてく最大事(214)
「ふとした出会いね。邂逅(かいこう)ってやつね」
「私の芸を初めて認めてくれた方なの」
「へー、そんな人がいたの」
「磯千代の芸には艶があるっていってくれたの」
「眼が高いね」
「兵ちゃんと一緒よ。同じことをいってくれたの」
誰でもが 自分の姿を見てくれるひと そんなお人に添寝する(215)
「そうだよな。自分を見てくれている人が一番だよな」
「いいも悪いも思いやりがあってのことだけど」
「その人姐さんの女振りに惚れたんじゃないの?」
「その時は、もう40過ぎてたのよ、どうかしら」
「女も40半ばからが勝負だね」
「賞味期限ってのはないの?」
「メロンは熟れてから価値がでるんだよ、…ん」
色を重ねて齢を重ね 味が出てくる赤ワイン(216)
「今は紫が流行色。アタシゃ葡萄色のいい女かしら?」
「サッカクニャーん」
「タマ、姐さんに妬いてるね」
妬いて今更いうんじゃないが 主がモテるがシャクの種(217)
「その人のモテるのが目に見えるようだね」
「人のいいところを見れるお人は皆そうね」
「普通はアラをさがして嫌味をいうからね」
人の良し悪しどうすりゃ判る 葦(あし)も見方で葦(よし)になる(218)
「人の評価って危ういわね」
「自分の物差しだけで量るからね」
「物事がうまくいかなくなるエゴライフっていうのね」
エゴでもの見りゃ何にも見えぬ おめめ塞いで善がり声(219)
「独りぼっちになる人のことね。哀しい人間の性ね」
「まあ、人の出会いの不思議さが人間を励まし生かすんだね」
「兵ちゃんは顔に似合わず、いいことをいうわね」
「自分はどうニャーん」
「タマ、アタシに妬いてどうするの?」
「姐さんいい月が出ているよ」
「月がとっても青いから遠回りして帰りましょ」
「タマ、妬けるニャーん」