戻し戻して
「兵ちゃん今晩は。今夜もお座敷かけて頂きありがとう」
「磯千代姐さん今日は垂れものだね」
「嬉しいのよ、寒くなってくると袷の柔らかいのが着れるから」
「和服は何時から袷になるの?」
「この頃は寒さに因って色々よ」
「姐さん、一昨日ボクが世話になってた人が亡くなったんだ」
「まあ、ご愁傷さま、じゃ、兵ちゃんを慰めて…」
ひとの縁のはかなさみれば 空行くく雲に似るさだめ(178)
「人の縁ははかないなぁ。秋になるとまた身に沁みるね」
「生きてるもののさだめね。だから命を粗末にしないことね」
「子どもの頃の純な思いに戻りたいけど無理だなぁ」
「ウソおっしゃい、戻りたいと思ってないのに。こんなのは?」
時計の針を戻してほしい 戻し戻してあの日まで(179)
「姐さん、これって元カレとのことじゃないの?」
「兵ちゃん鋭いわね。アタシだって過去の良かったことに浸りたいのよ」
「皆過去と繋がって生きてるんだな」
「何時もなつかしさとお話しながらね」
「でも、今どきの子どもは話をしないで、テレビとゲーム漬けなんだって」
「テレビの良い悪いところを大人が教えてやればいいのよ」
「大人はテレビを痴呆状態で見て、思考停止の分裂症に罹っているからな無理だね」
「そうね、顔を見てれば分かるわ」
「ボクはニュース以外に余り見ないので、分が悪いなぁ」
「こんなのどう?」
テレビを見てなきゃ何故いけないの 野暮が多いい3時間(180)
「姐さん優しいね。毎日3時間ね…」
「何でも数がことを決める世の中でしょ。視聴率やスポンサーの意向で」
「公器でなくなってるからね。質の悪い週刊紙の動画版だね」
「やっぱりエゴとゴリ押しね」
「エゴっていえば、ペットの始末もできない人が多くなってきたね、…ん」
家畜にするなよベットもやめて みんな自分のエゴだもの(181)
「人間が家畜やペットにされたらどう思うのかしら」
「何かしら都合のいい理由をつけるよ」
「偽装と同じだね」
「どう、こんなの」
上手いことなど言っもダメよ それで食ってる人だもの(182)
「メラミン入り国家や毒入り会社の行く末は知れてるね」
「兵ちゃん今夜はいいお顔してるわ」
「世の奥さんたちは10年も経つと亭主の顔をほめないね」
「そんなのお互い様じゃないの。そうね、こんなかしら」
自分の亭主の顔見てごらん こんな男の妻だとは(183)
「言い得て妙だなぁ」
「今夜の都々逸はまとまりがなくて、分裂気味ね」
「テレビやラジオと一緒で、喜怒哀楽が分刻みに襲ってくるのと同じだね」
「アタシはこの先、何を信じて生きて行けばいいのかしら、不安だわ」
「姐さんはまだツボミだからこれからひと花咲かせるだろ!」
「まあ、何て冷たいお方。タマがたまげてるわ」
「ン、ニャーン、お姐たま、お兄たま」
「たま?」
「じゃ、ひとつ、…ん」
自分が信じりゃ真実だけど 人が知らなきゃ嘘になる(184)
「ノーベル賞は嬉しいけど、クオークが6個ってなんのこと」
「ようやく空海のいう『六次元の空(くう)』の世界があることが判ってきたんだよ」
「タマ、『6時限の食う』だって」
「もう10時だニャン」
「兵ちゃんもうすぐ寒露ね」