明日をも知れぬ
「兵ちゃん聴いててね」
私ゃ芸者で男のために 生きてきたのよ 一筋に(19)
「そうとは聞いてないよ。磯千代姐さん何人の男を泣かせたの?」
「兵ちゃんほどではないですからね」
「聞いた噂では、姐さんのことらしいが……」
マンション買えたしダイヤも買えた そろそろ貴方と別れよか(20)
「あらまあ、知ってたの。いやなお人」
「まあ、いいでしょう。みんな明日が知れないからね」
「兵ちゃんならどう唄います?」
「そうだな……」
ひとの情けの頼りのなさは 明日をも知れぬ身がつくる (21)
「思いやりのある深い唄ね。私も噂には聞いていたわよ。こういうのはどう?」
知っていたのよ 貴方のことは 黙っていたいのそのことは(22)
「意味深だなあ」
黙っていたとて何時かは分かる そういうボクとの仲だもの (23)
「だけどこの頃は何でもはっきりものを言うわね。思いやりがないというか、羞恥心がないというか、本当にイヤな目に会うのよ。少し前までは耳元で囁いたのにね」
「そうだね。耳元でね……。今は男の方が節度があるのかな?」
「節度じゃなくて、逆転しているのよ。いい、こんなの」
夜の静寂(しじま)を 悲鳴が破る「ねぇ、ねえ貴方」 声が高くて恥ずかしい(24)
「そうか、ついにそこまできたか」
>> つづく