真っ赤なウソを
「今晩は。兵ちゃんまたお座敷かけて頂いて有難う。若い妓が一杯いるのに
私のようなおバアさんでいいの?」
「磯千代姐さんでなくちゃ、即興都々逸は無理だね。邦楽のエッセンスという
やつだからね。若い人じゃ物足りないね」
「優しいお方、ん…」
この袖で ブッてやりたやもし届くなら 今宵の二人にゃ邪魔な月 (13)
「ん…、それ古典都々逸だね。いいね色気があるねえ」
「どうぞおひとつ…」
「姐さんもひとつ…。それじゃボクも……」
注しつ注れつ注されつ注して 二人の顔は桜色 (14)
「この頃は色気のあることにぶつからないな。何かと言えばセクハラだ、
タボハラだとかで気をつかう」
「その、タボハラって何?」
「メタボリックシンドロームのメタボのことさ。内臓に脂肪が溜まって、
肉がはみ出た腹のことだって。ジロジロみると吊るし上げを食うそうな」
「家の隣のおば様は三段だからミタボハラね。フフフ」
毒気食い気は誰にもあるが 洒落た色気は梨の花 (15)
「無しの花ね。兵ちゃん素敵! 掛け言葉っていいわね」
「能の謡に多いね。日本語の深い味のあるところかな。掛け言葉は永い
歴史をしょってるからね」
ん、ニャーとないてるタマさえ分かる 色気心の粋なとこ (16)
「即興って粋ねえ。もうひとつやるわね」
私ゃ大和の瑞穂の国の か弱き花よ野の花よ (17)
「おい、おいホントにそうか?」
真っ赤なウソを言うんじゃないよ 強きは女子(おなご)だ 山の神 (18)
「本当よ!殿方のために生きてきたんです!」
>> つづく